寄せ木張りの床を再生させる。

寄せ木張り(英語ではParquet 以下、パーケットリーと記載します)とは木材を緻密に組み合わせて幾何学模様を描き出す、寄せ木細工の技法を用いて作られる床材のことです。

ベルサイユ宮殿から一般家庭へ普及

ヨーロッパでは17世紀後半のフランス、ベルサイユ宮殿で最初に用いられたと言われていて、以降ヨーロッパの一般家庭の高価な床材として普及していったようです。
ヨーロッパの古いアパートやお宅には床がこのパーケットリーのところも多いのではないでしょうか。
主に用いられる木材はナラやブナの木。強度が高く、きちんと手入れをすれば耐久年数は軽く150年は持つと言われています。

70年前に主人の祖父母が建てた家のいくつかの部屋はこの寄せ木張りで作られています。
10年ほど前まで叔母が勝手に他人にこの家を貸し、借りている身にもかかわらず、家主に無断で見事なパーケットリーを破壊して暖炉の下にタイルを敷き詰めていました。

匠によるパーケットリーの状態チェック

リフォームをするとなったときに、当初の考えでは残りのパーケットリーを剥がして、新しい床材に張り替える予定でした。
木材を切り出して作られるパーケットリー、新しい高品質のパーケットリーを用意して全て新しく張り替えるのはそれだけ多額の費用がかかります。パーケットリーの新調は現実的ではないと諦めたのでした。

床材の下調べに街の床材店へ

店主に相談して自宅のパーケットリーの写真を見せると、状態の良いパーケットリーがあるのに剥がすのはもったいないと言われました。
現在流通している大半の床材は表面1mm は床材に適した木材を安価な土台の木材に貼り付けて作られているからです。

そこからインターネットで(困ったときのスロバキアのフリマサイト bazos.sk )
中古のパーケットリーが売りに出されているか探して購入することを試みることに。

しかし、パーケットリーには色んなサイズが存在しています。
私たちの家のパーケットリーはブナ、35cm×5cm 、厚さは2.5cm
検索をかけて、片っ端から電話をかけること10件。ようやく同じ木材、同じサイズのパーケットリーを持っている方を見つけることができました。もはや執念。

スロバキア式人探し

中古でパーケットリーを入手、次は修復してくれる職人を探さないといけません。
前述の街の床材店で聞くと私たちの村から一番近い小さな町に職人のおじいさんがいるとのこと。しかし、残念ながらおじいさんの名前までは分からないと言われました。

その後、職人のおじいさんが住んでいる町のスーパーマーケットの入り口にいた警備員にパーケットリー職人のおじいさんを知っているか聞いてみると自身はこの町に住んでいないので知らないと。そこに話を聞いていたおばあさんが名前は知っているけれど、どの通りに住んでいるか分からないと。そこに横を通り過ぎたおじいさんがパーケットリー職人のおじいさんの家がどの通りにあるか知っていると。

まさに三人寄れば文珠の知恵
これぞスロバキア社会。インターネットや電話帳に情報がなくても街頭で探すと見つかる。
早速職人のおじいさんのお宅に突撃訪問をして、パーケットリーの修復の依頼をしました。

復元の後の工程は、表面を研磨→隙間の埋め合わせ→油引き

専門の機械で表面を研磨すると、木材本来の色が露になりました。
研磨しながら、匠のおじいさんは憤慨していました。「こんなに状態の良いパーケットリーを切って破壊したなんて、どんな馬鹿だ」

ちなみにこちらの匠、この手の専門を専攻して高校を卒業、そこからこの道一筋の本物の匠です。

簡単そうに見えるけれど、絶対難しいやつ

油引きはノスタルジー

私にとってはとても懐かしい匂いでした。
何故なら小中学校の教室は土足でした。
学期末には床のメンテナンスのための油引きが行われるため、新学期は油の匂いが充満した教室で迎えることになります。
机の横にひっかけた鞄の裾をうっかり引きずって、黒くして帰って親を落胆させた児童は数知れず。

油を引くと木目が際立つ

サステナブルな床材

木材の厚さが2.5cm あるので、床から寒さが上がってくることはなく、表面が摩擦で消耗すれば再度油引きをすることでメンテナンス。損傷がひどくなると、薄く研磨すればまた綺麗な木目が出てきます。

大量に木材が必要となるパーケットリーですが、150年使い続けることが可能だとすれば、環境に優しいと言えるのではないでしょうか。

現在は床材も新しい技術が使われ、様々な種類のものが流通しています。しかし、パーケットリーほどの品質のものはないように感じます。

匠のドヤ顔とともに油引き終了、修復完了です。
今後は数年ごとに油引きのメンテナンスが必要となりますが、きちんとお手入れをしながら永く使い続けたいと思います。

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